アメリカ宗教史関連本リスト(英語)
自分のためにゆるく更新しています。19世紀までのものが多くなってしまっています。
19世紀 初期共和国関連
民主主義時代のキリスト教に関する本
Nathan O. Hatch, The Democratization of American Christianity (1989).
19世紀初期を勉強する人はみんな読む古典。宗教集団の男性リーダーが大衆的な手法やカリスマ性により人気を得たことを描くことで、革命後の民主化の時代にいかに宗教までもが民主化したのかを説いた本。その時代に急成長したメソジスト、バプテスト、ディサイプル、アフリカン・アメリカンなどが研究対象。ハッチがいう民主化からは黒人や女性はあぶれるので注意が必要。
Christine Leigh Heyrman, Southern Cross: The Beginning of the Bible Belt (1997).
同じ時代に関する本だがハッチの描く民主化とは全く違う宗教史を提示している。南部、特にVirginiaのプロテスタントが奴隷制を守るために、家父長主義的な価値観を自分たちの価値観の中に取り組んでいった話。最初はアングリカンが主流派だったが、革命後は政教分離によりバプテストが勢力を拡大する。その過程で人々の支持を得るためにバプテストも家父長主義的かつ階級社会をよしとするようになっていくという話。
Amanda Porterfield, Conceived in Doubt: Religion and Politics in the New American Nation (2012).
上のHatchの本に答える形の本。(更新予定)
このカテゴリーには入れないが、Abzugの下の本もハッチと一緒に読まれるべき。
北部のリバイバルと改革運動
Paul E. Johnson, A Shopkeepers Millennium: Society and Revivals in Rochester New York 1815-1837 (1978).
19世紀初期、第二次大覚醒と呼ばれる宗教復興運動がアメリカの各地で起き、リバイバルで回心した人々は宗教的な慈善結社に加わり社会改革運動を推進する人が多かった。本書はリバイバリストのチャールズ・フィニーが成功を抑めたロチェスターのリバイバルに焦点を当てている。産業化の波でそれまでの徒弟制度がくずれ、経営者と従業員を結ぶ紐帯が失われたときに、第二次大覚醒で説かれた自己規制や禁酒などが、いかに経営者が従業員をsocial controlする上で役立ったかという話。
Robert H. Abzug, Cosmos Crumbling: American Reform and the Religious Imagination (1994).
上記のようなリバイバルや社会改革は中産階級によるsocial controlとする見方に否を唱えた本。また本書はハッチとも異なる宗教史を提示しており、ハッチの本では北部のリバイバリスト(フィニーなど)はメソジストのパクリなのだが、この本ではニューイングランドにその根源があることがわかる。北部の改革運動をただのsocial controlではなく、ある世界観によって突き動かされていた運動だと捉えた本。禁酒、安息日遵守、奴隷制反対運動、女性の権利獲得運動などが出てくる。
Mark A. Noll, Civil War as a Theological Crisis (2006).
この本が宗教史外の歴史家に与えた影響も大きいだろう。なぜアメリカのキリスト教徒が字義通りの聖書解釈を好み(スコティッシュ啓蒙から影響を受けたコモンセンスによる聖書の読み方+民主主義的な価値観、すなわち万人が理性を持ってすれば聖書を偉い人のガイドなしに解釈できるという立場)、それが奴隷制度の擁護に繋がり、19世紀半ばからヨーロッパでは聖書批判の解釈が主流になりつつあったのに、奴隷制度を手放せないためにアメリカのプロテスタントは南北戦争を経験しても、なんら神学的な変革を経験しなかったという本。
Molly Oshatz, Slavery and Sin: The Fight against Alavery and the Rise of Liberal Protestantism (2012).
いやいや南北戦争を通じて神学的な変革あったし、とマーク・ノールに挑戦したすごい本。南部は字義通りの解釈に固執した一方で、北部では奴隷制に反対するためにコモンセンスに頼った聖書の読み方をし、奴隷制は聖書では批判していないけれど、聖書の精神から考えて悪でしょうという主張をした北部の穏健な奴隷制反対者にスポットライトを当てた本。ここに北部のリベラルプロテスタントの萌芽をみている。