アメリカ宗教事情

英語の記事を訳しています

アメリカの大学院の博士課程に進む前に知っておきたかったこと

※本記事は日本の大学院で修士を終えた後にアメリカの地方の州立大学で博士課程(歴史)に進んだ個人の体験に基づくものです。全てを鵜呑みにしないでください。また本記事によって被った影響について当方は一切責任を負いません。

 

※ "3. 大学院の選び方について"の項目にファンディングの確認と大学院のコミュニティの雰囲気の確認を追加しました。(2019年8月)

 

その2を書いたので、こちらも参考にしてください。

hoshiimo373.hatenablog.com

 

ナイーブな筆者は恥ずかしながら研究を面白いと思っていればなんとかなるだろうの精神でアメリカの大学院博士課程まで来ました。

今の所なんとかなってはいるのですが、もっと前から大学院とかアカデミアたるものの全体像を理解して、戦略的に立ち回っていればよかったと思っています。ここに書いてあることのほとんどは私ができなかったことですが、かつての私のようにアメリカの大学院ってよくわからんちんと思っている人に、本記事が少しでも何か役立つ情報を分けてあげられれば幸いです。

 

1. 留学するか否かについて

 というよりまず博士課程に進むかについて。

少子化が進む日本では、終身雇用の大学教授の職を得るのは中々困難だという話を良く聞きます。准教授になれても授業のコマ数が多くて自分の研究が全くできなくなる話も良く聞きます。

アメリカの大学院に入ってからも、今のアメリカのジョブマーケットが厳しいこと、多くの若手研究者がlecturer やadjunct professor (簡単にいうと短期の契約社員)のサイクルから抜け出せないことなど非常によく聞かされます。筆者の大学では入学早々、卒業後のアカデミア以外の別のキャリアの可能性についてのセミナーに参加させられました。笑 

今教授職についている先生方の中には就職について楽観的なことを言う人がいるかもしれませんが、ジェネレーション・ギャップ。そのような時代は終わったと言っていいでしょう。現実を考えて、博士まで行く必要があるのか自分の将来について考えましょう。

 

2. 留学の時期について

修士からいく?

英語の習得は若いうちのほうが早いというのは多分本当(特に発音)なので、大学卒業後すぐに行きたいと思う人もいるでしょう。

アメリカの大学院の良いところは、Teaching AssistantやResearch Assistantの制度が充実していて、これらのポジションを得るとほとんどの場合学費が免除になり、さらに月々のお給料が貰えるのです。もしこれらのアシスタンシップが得られなくても、フルブライトやJASSO等の奨学金に応募できれば大都市でなければなんとか生き延びれるでしょう。

問題は拙い英語力でどのように一年目TAやRAをしながらコースワークを生き抜くのかというところ。もし博士課程に進みたいならなるべくあまり悪い成績は取らないほうが良いと思います。フルブライトを持っているなら一年目のTAを免除してもうらよう交渉することもできますが、将来アメリカで働きたいと思っている場合学位取得後の二年間の帰国滞在義務の重さについて考えておくと良いでしょう。

二年目にはThesisと博士課程へのアプリケーションで大変になると思いますが、その時までには多少英語ができるようになっているので、日本で英語のペーパーを書くより楽になります。大抵の大学にはWriting Centerがあって留学生の英語を見てくれます。日本の大学では大学院レベルの英語の文書をタダで見てくれて直してくれる制度はまだ整っていないので、こういう制度は大変便利です。

 

・博士課程から行く?

私の場合日本の大学院に行っていなかったらそもそもアメリカの大学院に応募するためのネタや土台となる知識が全くなかったと思うので、博士課程から行ってよかったと思っています。

あと修士過程のときに出会った指導教官には今でも日本の奨学金に応募するときに大変お世話になっているのと(日本人は日本の奨学金が断然取りやすい)、修士のときに出会った友人たち(みんなアメリカで今留学中)と日々情報交換をしたり助け合っているので、こういう日本人同士のネットワークを築けて本当によかったと思っています。

その他の重要なメリットとしては人文系の場合修士よりも博士課程で応募するほうが、アシスタンシップが獲得しやすいかもしれません。

 

3. 大学院の選びかたについて

まずその分野の大学ランキングなどをチェックして、一つ一つその学部のホームページを見ることから始めましょう。

・少なくても2〜3人自分の研究テーマと似た研究をしている人がいる大学に行こう

その大学に自分の研究のテーマと先生のテーマが一致する先生が1人しかいない場合注意が必要です。アメリカの大学では先生が大学を移ることは珍しくありません。また、大学を移らなくてもサバティカルといって三、四年に一度、先生が研究でどこかに行ってしまうのもよくあることです。たとえばあなたの専門がペルーの宗教史で、その先生がいなくなったら誰もペルーのことを教えられないのなら、その先のことについて考えておいたほうが良いです。大学について考え直してもいいと思います。

その先生がいなくても、例えばテーマは異なっても他にペルーの同時代のことを教えられる先生がいるとか、地域が違くても宗教史関連でお世話になれそうだとか、そういうセイフティーネットが優れているところに行きましょう。大抵ちゃんとホームページにここの歴史学部は何々が強いと書いてあるので、ちゃんと読んで学部の強みと自分の研究が重なっているのか確認しましょう。将来的に博論を書く際にコミッティーというのを形成しないといけないのですけど、大抵自分の歴史学部から三人教授が必要です。研究テーマにおいて何らかの接点がある先生が最低三人いる大学を選びましょう。

また、優秀な先生の中には学生のことをネグレクトしたり、逆に過干渉で自分の研究と学生の研究の方向性がずれると学生の研究を否定する人もいます。相性が合わずにアドヴァイザーを変えるというのは、人文系なら本当に良く聞く話です。性格の相性や教授の面倒見の良さは本当に大事です!(しかしこれらの情報は入ってみないとわかりにくい!)なので、再度念を押しますが、一人の教授に頼り切った学校の選び方は考え直しましょう。

あとadjunct proffesor やlecturer という肩抱きの人は短期契約で教えていることが多いので、彼らは指導生を持てません。associate professorかprofessorの中から指導教官を探しましょう。assistant professorはtenure trackにいる場合がほとんどだと思いますが、念の為指導学生を持てるのか、応募する前にメールをして確認しましょう。

 

 

・ファンディングを確認しよう

ファンディングが4,5年貰える大学を目指しましょう。一番簡単な確認の方法は大学のホームページの確認、すでに在籍している大学院生に聞く、DGS (Director of Graduate Studies)に聞く、です。ただ注意したいのはファンディングの内容は年度によって変わることがよくあるので、先輩が貰っているのと自分が貰うファンディングが同じだとは限りません。また、大学によっては新入生に全く同じファンディングを与えずcompetitive base、すなわち優秀な学生に良いファンディングを与え他の学生にはあまり良くないファンディングを出す場合もあります。こうなると実際合格通知を貰ってみるまでファンディングの内容はわからないので、ホームページとDGSと先輩にメールをして、「これと同じものが貰える可能性はないかもしれない」ということを心の隅に留めておくとよいと思います。

ファンディングで注意したいのが、期間(何年間か)、仕事量(teaching loadやresearch assistantshipの有無など)、金額、リサーチに関する援助、期間延長の可能性(これ結構歴史では大事)かと思います。順を追ってみましょう。

 

何年間もらえるか?

一番大事なのがファンディングの期間です。一般的に「ファンディングが貰える」=授業料が免除される+お給料が出る、です。ここでネックなのが授業料。お給料 (stipendといいます) が少なくても他の奨学金に応募することで生き残ることはできますが、アメリカの大学の授業料はとにかく高く自分で支払うのは大変です。授業料免除が5年間保障されると心理的にとても楽になります。

フルブライトや他の奨学金を貰っている場合は最初の二年間をそちらでまかない、大学からのファンディングを三年目からもらえるように交渉して、7年間安泰プランを設計したりできます。ただし、こういった交渉に応じてくれるかは大学次第なので、合格後に確認することが大事です。

 

仕事の有無

「5年間ファンディング貰えた」と言っても、ティーチング・アシスタント(TA)やリサーチ・アシスタント(RA)やグラデュエイト・アシスタント(GA)の有無などその実態は様々です。私立やお金を持っている州立大学だと、TAやRAの義務なしで5年間ファンディングを貰えたりします。つまり、仕事をしないで5年間授業料免除でお給料が貰えます。

お金のない大学だと、仕事は全部免除されません。TAやRAを二年間とか決まった期間のみやったり、もしくは授業料免除を貰ってる間一年目から卒業するまでずっと働かなくてはならなかったりします。TAなどの雑務に追われずに自分の研究に専念できることは素晴らしいことです。TAをするということは、大学の近くにいないといけません(オンラインの授業などがある場合は例外的に離れることもできる)。つまり、自分のリサーチのために他の地域に行きにくくなります。

しかし一方で、最近はアメリカのジョブ・マーケットにおいてTeachingの経験が重視される傾向があるので、経験しておいた方が良いことなのかなとも思います。TAの義務がない大学に入学しても、機会を見つけてTAをしようとしている学生の話は結構聞きます。ただし日本のジョブ・マーケットを考えている場合は、アメリカでTAをやっても日本での教歴が重視されるためあまり評価されないことを留意しておきましょう。

ちなみにTAには採点しかしないTA、ディスカッションのセッションを持つTA、完全に授業を教えるstand aloneなどの種類があります。stand aloneアメリカのジョブ・マーケットでは一番重視されるため、大変ですが機会があればやっておくのは良い経験になると思います。

 

金額

あるにこしたことはありません。が少なくてもJASSO等の外部資金に申し込むことでなんとかなります。地方のお金のない州立だと月$1250とかありえます。都市の州立だったり私立だと月$2000以上貰うことも。大学周りのアパートの値段を調べて生き残れるか確認しましょう。craigslistのサイトでアパートメントの値段を見ればなんとなく相場がわかると思います。足りない場合は奨学金に応募しましょう。JASSOだと月10万強最長三年間貰えるので、生活費の足しになりますよ。申し込みの書類は大変ですが、次の記事に書くように一つ奨学金をもらうと他の奨学金が貰いやすくなったりするので頑張ってみましょう。自腹を切らずにどうしたらいいかをまず考えてみるのがオススメです。道は色々あります。

 

リサーチなどに対する援助

大学によっては、コースワークが終わった3年目や4年目にリサーチ・イヤーといって一年間(大学によってはコースワーク終わったらその後ずっと)大学から離れた場所でリサーチさせてくれたりします。これは先程述べたファンディングに含まれるteaching loadにも関わってきます。授業料免除のためにはずっとTAをしなくてはいけない大学の場合、大きな外部資金をとってこない限り大学を離れリサーチに専念することはできません。

 

ファンディングの期間がおわったときのオプションについて

次の記事で詳しく書きたいと思うのですが、ほとんどのファンディングが5年で終わるのに歴史学部は5年で卒業できない場合が多いです。6年目以降のサポート(すなわちdissertation completion fellowship)が充実しているかを確認するのが大切です。5年間はちゃんとサポートしてくれてたのに、いきなりハシゴを外された…などの怖い話を聞きます。そういう場合は留学生なら日本に帰って博論を書き上げたりしないといけない...のかな…?(どうですか、留学中のみなさん)もし学内の6年目のサポートが充実してないけれど大学に残って博論をかきあげたいときは外部のdissertation completion fellowshipに応募しなくてはいけないことを意識しておきましょう。

 

余談:ファンディングの分配方式について

先程少し触れましたが大学によって、新入学生全員に全く同じファンディングを出すタイプと、Competitive base(優秀な人にしかいいファンディングを与えない)タイプがあります。前者は少人数制の大学などで多く、後者はお金がない場合か大学院生同士を競わせて向上させようという方針のようです。後者の場合どうしても学生間の関係がギスギスする可能性があります。前者タイプのほうが精神的には楽です。

 

ファンディングまとめ

長くなりましたが、ファンディングでは期間(何年間か)、仕事量(teaching loadやresearch assistantshipの有無など)、金額、リサーチに関する援助、期間延長の可能性(これ結構歴史では大事)、分配方式などを確認しましょう。

確認の歩法は1)大学のホームページや歴史学部等のハンドブックを確認する。2)DGSにメール、3)大学院生に誰かメールをして聞いてみる、です。大学院生にメールする場合、いっぱい賞とかファンディングもらっている人で、なるべく5年目とか先輩の人に聞くといいです。

以下簡単な例文を載せておきました。ただし筆者はネイティブでないので、使用する場合は自己責任でよろしくお願いします。

 

Dear Dr. (DGSのFamily name) / Dear (大学院生の場合はFirst nameで気分を害する人はほとんどいないだろう),

 

My name is (あなたの名前), a graguate student at (あなたの大学の名前).

I am considering applying for (応募先の大学)and wondering what kind of funding package I could expect from the department.

I would greatly appreciate it if you could take the time and answer my questions:

- the length of PhD (修士ならMA) funding

- how many years do stundets need to work as TA/RA?

- in general. how much stipend can students get a year?

- can students take research years after becoming ABD? or do students need to get outside funding to leave the university for research?

- is there any dissertation completion fellowship to support 6th year and 7th year of Ph.D. program? Is it very competitive to get?

- will all new students get the same funding package?

 

Best regards,

(あなたの名前)

 

・幅広く応募しよう

さて、一般的にいうとアメリカの大学は州立よりも私立大学の方がお金を持っています。けれど、ファンディングがある州立大学にも応募するといいと思います。州立大学は「リサーチユニバーシティ」というカテゴリーに入っていて自分の研究の時間を比較的とれるので、研究者の間で人気があり、優秀な研究者が集まってきています。有名な私立大学に行かないとちゃんと指導して貰えないということはほとんどないと思います。

あと授業の内容ですが、どの大学でも結構似たような文献を読まされます。他大の友人との会話で、ああその本私も授業で読まされたよ、ということがよくあります。アメリカの研究者の間で「この本は読まれておくべき」という知識が共有されているようです。(今なら後に少し触れるStatement of Purposeでマイナーな本よりもこういうよくアサインされる本を引いて、これにインスパイアされたという風に書けばよかったと思います。そうすれば読む側も「なるほどね〜」って理解してくれやすかったのではないかと思います。どのような本がよくアサインされるのか、リストが知りたい場合はたとえば"19th century German history syllubus"とかで検索すると結構でてきます。教授同士がオンラインでシラバスを積極的に共有しているので)

だから少し指導教官の話に戻りますが、もし自分の大きなテーマ(例えばアメリカのジェンダーとか労働史とか)関心がその先生の関心と被っていれば、多分その先生はそのテーマに関する本を学生の頃に幅広く読まされています。細かい研究対象は被っていなくても、テーマが被っていればある程度の指導はできると思います。そういう先生がいる州立大学にもどんどん応募しましょう。

 

・大学院のコミュニティの雰囲気を確認しよう

もし時間と余裕があれば、一緒に学生をする人がどんな人たちなのか、また大学院の周りは住みよい環境なのか知るために、院生のプロフィールを見て、関心が近い人にメールを出してみましょう。先生のパーソナリティや生活環境など(車が必要かなど)を聞いてみましょう。お金がある大学の場合は合格通知が来た後にキャンパスビジットに招いてくれるので、その時に聞けばいいのですが、大学によってはキャンパスビジットに海外の学生を招いてくれない場合もあるので、出願の時点で聞いておくのもありです。 

 

4.将来指導教官になって欲しい人にメールをする。

大学を決めたら指導教官候補に連絡して、「20xx Fallの入学を考えていて〇〇といった研究に関心があるのだが、学生を取る気はあるのか」と聞いてみましょう。お年を召した先生だと「もう学生はとっていない」など返事が来ることもあります。その先生以外に頼れる人がいない場合その大学はご縁がなかったということでいいと思います。

 

・メールの宛名について

Dear Dr. Last name,

から始めるのが安全だと思います。特に南部ではDr.という呼称が一般的。ちなみにDr. というのは博士号をもっている人のことです。たまに修士号のみで教授になっている場合があるので、経歴が良くわからないときはDear Professor Last name, が安全です。これなら教授でも准教授でも助教授でも通用します。北部だとDr. よりProfessorが一般的な呼び方という話も聞きます。ファーストネームで呼ぶのは直接会って「ファーストネームで呼んで」って言われるまで待ったほうが無難です

 

・自分のことについて

大学院生です、というのにも色々な言い方があります。

graduate student →大学院生の意味。修士でも博士でも使える。

Ph.D. student→博士課程に在籍中の学生。コースワーク中でもコースワーク終わってても使える。

Ph. D. candidate→コースワークは全部おわって、テストも合格して、あとは博論を書くだけ。ABD (All but dissertation)ともいう。

 

・メールの内容に関して

英語記事が結構書かれているのでそれを参考にするといいでしょう。"how to write an inquiry email grad school" とかでググるとたくさん出てきますよ。

基本的には指導学生を取る気があるかという確認と、自分の研究テーマの簡単な紹介です。アメリカでは教授との関係が(少なくとも表面上は)日本より上下関係が激しくないので、「あなたに教えて欲しいの」というスタンスよりは「私はこれこれこれに関心があって、あなたの研究から重要なinsightを得られると思っている。一緒に働きたい(I look forward to working with you)」のようなフラットなスタンスでいいと思います。本当はその人の研究を読んでおいて、「これ読んで、私もこういうテーマに関心があるから一緒に研究したい」と言うのがいいんですけど、時間がないときは一冊目(大抵これは博論をベースに出版したもの)のイントロ、もし一冊目が20年も前に書かれている場合や他に有名な本がある場合はそちらのイントロだけ読みましょう。(大事なことは全てイントロに書かれているはずなので)もし、時間がない場合は、論文を読みましょう。でグズグズせずにさっさとメールしましょう。

アメリカの大学院の教授は、自分の学派を作るというよりは、面白そうな研究をしている学生を持ちたいと思っている印象です。(しかし例外もあり、例えばシカゴ大学は理論系が強く卒業生も理論推しが多いという印象)

 

 ・メールを送る時期について

早いに越したことはありません。

12月だと学期末だし返事が遅くなるかもしれません。締切間近でヒヤヒヤしたくないなら夏休み中に各大学のホームページ見てメールをするのがいいですよ。

7−8月は夏休み中なのでもしかしたら返事が遅いかもしれません。けど早いに越したことはありません。返事がない場合は9月くらいに再送しましょう。

返事がない場合は大抵ただ忙しくてうっかりメールを見落としてしまっただけなので、鉄の心でもう一度送りましょう。

 

5.研究テーマについて

申請書を書くときにStatement of Purposeなるものを書かなくてはいけません。

もう遠くて苦い記憶過ぎてあまり思い出したくないのですが、応募する大学の教授の研究テーマのマッチングが結構大事だと思います。たくさん応募していたら中々直すのも難しいと思いますが、その大学に合わせて自分の研究の強調点を変えるといいかもしれません。(こっちの大学では宗教史推しといて、こっちの大学では人種、こっちではアトランティックヒストリー、、、といった感じ)

あとは研究の新規性ですかね。

結構歴史学だと流行りがあったりして、最近のだとenviromental history, transnational history (これまだ流行ってるよね...?) , history of science, history of medicine, affection? とかけっこうパネルが開かれている気がしますね。こういう傾向は日本国内にいると中々分かりにくいのですが、一番大きい自分の分野の学会(歴史ならAmerican Historical Associationなど)のホームページにアクセスして最近の年次例会でどんなパネルが開かれているか、少し見てみるとなんとなく傾向がつかめるかもしれません。

逆に流行ってないもの:国対国みたいな外交史、白人男性の政治家、知識人、軍人など要するに権力者にのみ注目したような研究。これらの研究は、応募している大学がこの分野のpowerhouseでない限りは何故それを今やる必要があるのかちゃんと説明できないとだめだと思います。

というのも、1. やり尽くされてる、2. 抑圧された人々(その時代の文脈によるが非白人、先住民、移民、女性、LGBTQ、子供などなど…)の経験に光を当てようという先行研究の流れを真剣に受け止めていないと思われるから、です。サバルタンスタディーズの成果は真剣に受け止められています。私は国内にいるときは政治史や思想史が格好よく見ていたので、アメリカに来たときは少し驚きました。史料へのアクセスが限られている中で、日本での研究が出版物を多く残せた人に注目しがちなのは仕方のないことかもしれませんが。アメリカに来てから自分の研究このままのテーマだとつまらないなと思うようになり、大きく変えました。

まだ傾向としてはグローバルに向かう動きが強いように思えます。一国史よりトランスナショナルヒストリーへ、アトランティックからパシフィックへ、帝国と植民地という二者の関係よりも植民地と帝国間の関係へ、などどんどん広いフレームワークを用いているような気がします。

 

今まだ修士論文のテーマを決めていないなら、こういう傾向を知って戦略的にテーマを決めてもいいと思います。もちろん無理なく自分が面白いと思える範囲で。そして修論を英語で書くと、Writing Sampleと書くのが後で楽になりますよ。

私のように修士論文は白人のおっさんの話しかしてない場合は、研究計画はもう少し工夫するといいかもしれませんよ。

 

6. 余談

留学することにした場合、Professor is Inという本を購入することをおすすめしますよ。

 

The Professor Is In: The Essential Guide To Turning Your Ph.D. Into a Job

The Professor Is In: The Essential Guide To Turning Your Ph.D. Into a Job

 

 

この本はアメリカの大学院の授業でもアサインされます。人類学の先生が書いている本なので歴史学とは多少勝手が違ってきたりすると思いますし、彼女が言っていること全てを鵜呑みにする前に色々な情報と比較するといいと思います。

が、それでも!これをアメリカに来て数年たって初めて読んだとき、「もっと早く読みたかった!なんで誰もこういう話を今までしてくれなかったんだろう!」と思いました。

その時に自分が大学院入学の準備をしているときの、あの闇の中にいるような気分を思い出して、少しでも何か役に立つ情報が私もシェアできればと思ったわけです。

この本のテーマは大学院入学というよりは、これからジョブマーケットに出るABD(all but dissertation)の博士課程学生に向けて書かれたものです。けれどこれを読めば三年目、四年目にどういうことをしておくべきかという大まかな流れが見えて、それに向けて一年目から準備もできるし、大学院についてより具体的なイメージが掴めます。この本に載っている情報が全て正しいかはまた別の話ですが、情報を多く知っておくことは決して損にはなりません。

大学院で自分の生徒を留学させようとしている先生方にも是非知っておいてもらいたいです。特に私がいた大学は博士課程の学生を留学させようとする傾向が強かったので、本当は大学の方で積極的にこういうリソースを紹介する制度があるといいと思います。

 

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結構長くなったので、今回はとりあえずこのくらいで。

経験者の方、もし他に付け加えるべきことなどあればお知らせください。

 TOEFLGREについての私の経験は全く役にたたないので、この先それについて触れる予定はありません。